あなたとホワイトウェディングを夢みて
 学生時代から勉強が学生の本分として考えていた留美は男に縁のない生活を送ってきた。それでもプレイボーイの郁未と関わることでお互いに好意を持ち将来まで誓い合うことができた。
 男運のなさが薄幸の人生と感じたことなど一度もなかったけれど、郁未との恋愛で幸せを感じたのは紛れもない事実。あれほど嫌悪していた相手なのに、騙されていたと判った今でも胸の熱い炎は消せない。
 エントランス前で足が止まっている留美は空を見上げた。社屋の上層階、役員フロアにある専務室。コーヒーを片手にソファに腰掛ける、魅惑的な郁未の姿が頭に浮かぶ。
 相手は詐欺師同然、そんな男など頭の隅っこからその存在を追い出そうと、頭を左右に振りながら拳を握りしめた留美はエントランスへと入って行く。それと同時にエントランス真正面のエレベーターの扉が開き、そこから顔見知りの女性社員が下りて来た。

「あら、佐伯さん。出かけていたの?」
「え、ええ……まあ」

 声をかけられたものの、本当のことが言えない留美は気まずくて少し俯き加減で話す。
 いつもの元気がないと、留美の顔を不思議そうに見たその社員が首をかしげて言う。

「佐伯さん、大丈夫? 顔色悪いわよ」
「あの、実はそうなの。それで頼みがあるんだけど、……お願いしていいかしら?」
「構わないわよ。そこの受け付けにこのファイル渡しに来ただけだから」

 「ちょっと待ってね」と言って、彼女は手に持っていたファイルを受け付けへと持って行くとファイルを手渡し、留美のところへとすぐに戻ってきた。

「実は、情報処理課の田中先輩に伝えて欲しいのだけど」

 エントランスには足を踏み入れたもののデスクへ戻る勇気のない留美は早退を理由に、置いてきた自分の荷物をエントランスまで田中に持って来て欲しいとお願いした。
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