あなたとホワイトウェディングを夢みて
「……何か用なのか? 呼んだ覚えはないが」

 無表情な郁未の顔面以上に冷ややかな言葉が、留美の心にグサリと突き刺さる。
 それよりもっと留美を動揺させたのは、デスクに座る郁未と郁未に寄り添うパリ・コレクションのモデルを彷彿させる女性との、このツーショットだ。
 ビジネス街の街並みを背景に、大きな肘掛け椅子にもたれ掛かる郁未の妖艶さに、留美の胸が激しく鼓動するが、隣には世界中の女性の美を集結させたかのような麗しい女性が侍っている。

(誰?)

 留美の脳裏に営業部の女子社員らの会話が浮かんだ。郁未の婚約者が知的美人で高嶺の花のような人だと。

(婚約者に適わないですって? こんな人と庶民の私達を比べるなんておこがましいわ)

 美男美女で家柄の釣り合う似合いのカップルだと、留美は素直にそう思えた。すると、苦情を言いにここまで駆け付けてきたが、今すぐにでも去りたい気分になる。

「と、突然失礼しました」
「……いや、いい」
「こ、ごめんなさい」

 一瞬、美女相手に身を竦めた留美だが、深くお辞儀をすると郁未らに背を向け、ドアノブをギュッと握りしめた。

「留美」

 久しぶりに郁未に名前を呼ばれドキッと心臓が止まりそうになる。
 しかし、自分の立場は理解できている。地味で面白くない女で賭けの対象に過ぎないと……。

「お邪魔しました、仕事に戻ります」

 同席する女性対して、留美は軽く会釈する。

「あら、お仕事なら気になさらないで話を続けて頂戴」

 その女性はあっという間に留美の隣までやって来た。
 そして、ドアノブを掴む留美の手に自らの手を重ねた。

「仕事の邪魔はしなくてよ。郁未さん、私はこれで帰るけど、明日のウェディングドレス選びは一緒に行ってくださいね。あなたの気に入ったものを選びたいわ」

 彼女は淑女らしからぬ力で留美の手を握りしめる。

(何?! この馬鹿力……)

 その力強さに思わず彼女の顔を見上げると、背の高い彼女がクスッと勝ち誇った顔で留美を見下ろす。

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