あなたとホワイトウェディングを夢みて
社長以外公開しないと、社員の個人情報に関しての申告を思い出した。だから、社長以外知る由はない。人事課は守秘義務があるのだ、郁未が人事課から聞き出したとは思えない。
となると、経緯が何であれ、社長が受理したのであれば退職は免れない。
「あの……」
もう、用は済んだ。だからすぐに部屋から出て行けばいいのに、自分でも何を聞きたいのか頭の中ではハッキリせず、留美は振り向いて郁未の顔を見つめた。
ほんの数日会っていないだけなのに、郁未を懐かしく感じた留美は胸がキュンと高鳴る。
それは郁未も同じだった。手を差し伸べれば届く距離なのに、以前のようには留美とは触れ合えない。その距離は近くてもとてつもなく遠い。
抱きしめたい衝動を抑えようと、郁未は椅子を百八十度回転させ、留美に背を向けた。
「……っあ」
まるで聞く耳を持たないと言われているようで、すべてを拒絶されたような留美は言いかけた言葉を飲み込むと、唇をギュッと噛む。
郁未の背中が馴れ馴れしくするなと念を押しているようで、留美は俯くとドアの方へ歩いて行く。
「……いままでありがとうございました」
律儀に退職の挨拶など必要ないけれど、ドアノブを掴んだ留美は言わずにはいられなかった。そして、速やかに部屋を出て行った留美だが、廊下に出てドアを閉めた瞬間、何かがプツンと切れた気がした。
後ろ髪を引かれる思いが多少はあるが、まったく見てもくれない相手を想い続けても不毛なだけと、心を決めて郁未の部屋から足早に離れて行く。
(終わったんだ……これで何もかもが)
郁未との繋がりはこれにて完全になくなった。だけど、もともと最初から相手にされていなかったのだ。
郁未の婚約者は美人だったけれど、部屋を出て行く際に人を見下したような顔をした。その時の顔を思い出すと、人を人だと思わずに賭け事に利用した郁未とお似合いだと苦笑する。
(お父さんが持ってきた縁談の人、人徳も常識もある人だったわよね。きっと、素晴らしい人なのよ……)