あなたとホワイトウェディングを夢みて
「うーん、買い替えるならスマホを考えてたんだけど。でも、私って電話しか使わないから。これでいいかな……」

 会社や友人らは殆どが従来型のフィーチャーフォンではなく、大画面のスマートフォンを使う。機種も便利な機能も多いと話に聞くが、日頃、パソコンを使用する留美としてはあまり意味はなさそうだ。

「二つ折りがコンパクトで、私にはこれで十分だわ……」

 携帯電話を開いたり折ったり、ボタンを片手で押してみたりと使い心地を確認する。

「画面も綺麗だわ。誰の携帯なのかしら?」

 開いた液晶画面にデフォルトの写真が映し出される。黒を基調とする幾何学模様が鮮明で美しいボディだ。
 そこで電話帳のボタンを押して登録されている名前を確認する。

「え? 何なのこれ……」

 電話帳登録画面には一人の名前が表示される。それも、留美がよく知る人物の名前が。

「澤田郁未?」

 思わず口に出してその名を読んだ。
 電話帳を閉じて開き直すが何度やっても結果は同じだった。

「え? なんで? 専務なの?」

 これは郁未の携帯電話ではないのかと、留美にはそう思えた。けれど所有者が自分の名前を電話帳に登録するだろうか。
 そもそも何故、この携帯電話を父親がアパートから持ち帰って来たのか、留美は半ば頭がパニックを起こしかける。しかし、なんとか冷静を保ち頭の中で事のあらましを整理する。

「これはアパートから引き上げてきた荷物で、あの部屋で見付けた物をお父さんがダンボール箱に入れただけ。……ポスターは茶の間に置いていたから……きっと、電話も近くにあった?」

 誰もいない部屋へ誰がどうやって入ったのか。鍵がかかった部屋へ郁未が入れる筈はない。部屋の鍵は自分以外では家主がマスターキーを持っているだけ。
 アパートの解約へ行った時に、偶然に郁未と会い、頼まれて電話を受け取っていた可能性も考えられる。

「たしか、弁償するって言ってたような……?」

 けれど、郁未から送られた電話を使う気になれない留美は、携帯電話の電源ボタンを長押しし電話の電源を切る。
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