あなたとホワイトウェディングを夢みて
 親同士が親友で子供同士を結婚させたいと願うならば、今も親交は深いはずで、もしかしたら意外に顔を覚えているのかも知れない。そう思うと、子供の頃の記憶を思い出そうと頑張って頭を捻ってみた。

「……記憶が……ない」
「当たり前よ。まだ、あなたは小さかったし。小学校上級生になると友達と遊ぶのを優先したし、中学に入ったら勉強が忙しいからって自分の部屋に閉じこもることが多くなったでしょ?」
「だって、小学生の年齢って友達と遊びたいし、中学生と言えば勉強中心の生活になるわ……」
「さあさあ、話はこれくらいで。早くご飯を食べてしまいなさい。衣装合わせに行くのだから」

 花嫁以上に浮かれているのは母親だ。
 そんな母親を悲しませたくない留美は、郁未に弄ばれたことや、愛してくれない男性を想い続けながら他の男性のもとへ嫁ぐ決心をしたとは、死んでも言えない。
 だから、親の前では必死に笑顔を取り繕い、幸せな花嫁姿を見せ続けると決めた。

 留美が郁未以外の男性との結婚を決意した頃、とあるウェディングプランナーが取り仕切るブライダルハウスでは、世界で唯一の極上もののウェディングドレスがお披露目されていた。
 そこに居合わせた者すべての心を魅了する、素晴らしく愛らしいプリンセスラインのウェディングドレスだ。

「こんなにうっとりさせられるドレスなんて、生まれて初めてだわ。ねぇ、郁未、あなたの花嫁になる女性は世界で一番の幸せ者よね」

 結婚式を夢見る少女のように瞳を輝かせる母親に郁未は何の反論もできず、ただただひたすら無言のまま最高級のシルクで仕上げられたドレスを眺めていた。

(留美に似合いそうなドレスだ。高慢で生意気で憎らしいほどの減らず口のあの唇を、二十四時間俺の口で塞いでいてやりたいよ。ああ、留美がこれを着て、満面の笑みを俺に向けてくれればそれだけで俺は天国へ行ける……)


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