あなたとホワイトウェディングを夢みて
 ごく普通のありふれた日曜日のこの日、家に人が集まる予定があったろうかと首を傾げていると、階段をトントントンと軽快な足音を立てて誰かが上がってくる。

(何事?!)

 誰かが自分の部屋へやって来ると思えた留美は慌てて髪の毛を両手で撫でて身だしなみを整える。すると、勢い良くドアを開けて現れたのは留美の母親だった。

「何してるの?! 遅れるじゃないの。急いで降りて準備なさい」
「え? 遅れるって……」

 朝っぱらから身だしなみをバッチリ整えている母親は、留美とは違い化粧も済ませ、外出着の姿で、その上から真っ白な割烹着を着ている。
 今から出かける用事でもあったかと頭を捻っていると、母親に腕を掴まれ引き摺られるようにベッドから下ろされた。

「お、お母さん?」

 強引に部屋から出され階段を降りて行くと、階下からいつもと違う空気が伝わって来る。ただならぬ雰囲気に留美の足が止まる。

「遠くの親戚の人も皆揃っているのよ。もうすぐ美容師さんも来るのだから早くご飯を食べてしまいなさい。あ、でも、着付けて貰うのだから少な目にね。帯が窮屈で具合が悪くなったら大変だから」

 ペラペラと喋る母の言葉に留美は呆然として言葉を失った。

(な、何を言っているの? これは夢の続き?)

 だが、昨夜は夢など見ていない。プログラムに熱中するあまり脳内は疲労が蓄積し熟睡していたのだ。
 一階に降りてきた留美は目の前に広がる光景が日常とは違っていても、これは夢でも幻でもないと判る。

「あら、留美ちゃんまだ寝てたの? 駄目じゃない、早く顔を洗ってらっしゃい」
「そうよ、おめでたい日なんだから、遅刻は駄目よ」

 盆と正月が一度にやって来たような顔ぶれだ。叔母たちが茶の間から次々に顔を出しては留美に声をかける。
 すると、叔母らの後方からはにやけ顔の従兄弟らが皮肉を言う。

「そんな不細工な面してたら花婿に逃げられるぜ」
「頭だけの女と思われるなよ」
「バッチリ厚化粧して旦那を一生騙し通せよ」

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