あなたとホワイトウェディングを夢みて

「おひゃえりくらはい!!」

 『お帰りください』と怒鳴ったつもりの留美が鍵をかけた。それに気付いた郁未が慌ててドアをドンドン叩き、ドアを開けろと叫ぶ。

「ここを開けるんだ。今すぐ開けないとドアを蹴り破るぞ!」

 そう言われても、さっき一緒にいたゴージャスな女性はどうしたのかと、頭に浮かんだ留美は応じる気はない。

「ひゃえって!」

 『帰って』と叫んだつもりだが、まったく郁未には通じていない。金属製のドアを何度もバカ力で叩かれては近所迷惑も甚だしいと、留美が渋々玄関ドアの鍵を開ける。
 ガチャッと施錠が外れた音に反応した郁未がドアを強引に開け、ズケズケと玄関内へと入って来る。

「さっき駅前で、君が帰宅して行く姿を見てね。今日提出のデータはどうした? 時間になっても来ないから、その後の予定が狂ったんだ。得意先との食事も無くなってしまったしね」

 捲し立てる郁未の手がドアノブから離れると、玄関ドアがギィーっと鈍い音を立てて閉まって行く。
 ガチャンと金属音が聞こえドアが完全に閉まると、狭い空間の中で郁未の威圧感に圧倒され、留美は後退りする。
 『ゴージャスな美人とホテルにいたじゃない』と、言い返すつもりで喋るも、唇や舌が痛くてまともな声にならない。それに、早く水が欲しい留美は、郁未の相手などしていられない。
 口内を洗いたい留美は郁未を無視して台所へ急ごうとした。
 しかし、留美を逃がすものかと、郁未が留美の腕を掴んでは引っ張る。
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