あなたとホワイトウェディングを夢みて

 ハバネロ騒動で、すっかり郁未とのキスが霞んでしまい、何もなかった様にその日を終えた。
 翌日、いつも通り会社へ出勤した留美だが、ハバネロの所為で気力が出ない。
 朝一番で郁未へ提出するデータがあるが、昨夜の一件を頭に思い浮かべると専務室へ行くが億劫になる。

(なんで専務はわざわざアパートまで文句を言いにやって来たの? どうしてキスしたの?)

 郁未の意味不明な行動に頭を痛める留美は、専務室へ向かう足取りが重い。

「朝一で専務にデータ提出してきます」

 重々しい口調で課長に声をかけると、隣から田中がイキイキとした瞳で留美を見つめて言う。

「専務を口説いたらダメよ」
「……」

 田中の頭の中が専務一色なのだと理解した留美が呆れて何も言い返せないでいると、今度は課長から言葉が飛んでくる。

「くれぐれも粗相のない様にね、佐伯君」

 相変わらずの二人だと思いながら留美は苦笑する。
 毎回本気で相手にしている暇はないと、専務室へ行く準備を始める。
 引き出しから茶封筒を取り出し、封が切られてないかを確認する。
 問題ないのを確認したら『行ってきます』と、一応もう一度言葉をかけて情報処理課から出て行った。
 エレベーターホールへ向かう留美は、昨日の郁未とのキスを思い浮かべ憂鬱な気分になる。
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