あなたとホワイトウェディングを夢みて
流石に専務室の前までやって来ると、留美の心臓は少し落ち着かない。郁未とのキスを鮮明に思い出した留美は、昨日のハバネロの様に顔が熱く燃え上がりそうだ。
それに、キスした事もだが、もっと恥ずかしいと言えば、口内のハバネロを洗い流すのに郁未と水道水の奪い合いをした事だ。
一生の不覚だと、今になって取り繕うとしても後の祭り。
相手を押し退けて水を奪い合ったあの姿は、お互いにあれが本性なのだろうと、留美は多少ガッカリする。
専務相手に喧嘩をしかけたのは自分なので、今更相手にどう思われても問題ない。昨日の事も悲しい事故だと諦めて専務に会えば良いと、覚悟を決めドアをノックする。
しかし、何度ノックしても返事がない。
郁未を怒らせてしまったかと、もう一度ドアを叩く。
「なによ、人が勇気を出して来てやったのに」
昨日の今日だけに、ここへやって来るのがどんなに勇気が必要か分かっているのかと、ブツブツ文句を言いながらドアを叩いていると、背後からいきなり低音セクシーなボイスが襲ってきた。
「うるさい奴だな」
厭味な口調なのに、耳許から聞こえる声に背筋がゾクッと震えた留美は、思わず腰を抜かしそうになった。
もしかしてと思い振り返って見ると、やはりその声の主は専務の郁未だ。