君色キャンバス
 授業なんて大抵そんなもの。

 面白いとか、面白くないとか、そんな感情よりも自分自身がそれに耐えられるかが問題だった。


 シャープペンシルを持つ手がまた震えだす。

 その手を見つめ、俺は前よりも自制がきかなくなっていることに気づいた。


 今でも脳裏に焼きつくあの光景を思い出し、震えが一瞬で止まる。

 
 もうこれ以上は描けない。

 描いてしまったら今度こそ本気で止めれなくなる。

 
 アイツと同じになってしまう。


 * * *


 その日、俺は久し振りに部活へ行った。

 今考えてみればこの部活に入部した事は少しでも中野の純粋さに触れたかったからかも知れない。

 そしたらまたあの日の気持ちのまま、キャンパスに向き合える気がしたから。

 実際に中野の詩はもう一度俺に絵を描かせてくれた。

 失いかけたものがどれだけ大きなものだったか、その価値に気づかせてくれた。


 だけど。
 俺が絵を描く事は許される行為じゃないんだ。



 俺は中野に近づく。

「中野」

「……何?」

 不安そうにこちらを見つめる。

「今日の帰り、中野にあの絵をもう一度見て欲しい」

「ど、どうして――?」

「俺はもう絵を描かないから。最後に中野にあの絵を見て欲しくなった」

 “最後”

 そう放った瞬間、中野が目を見開いた。
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