柚時雨
競歩の選手かのように
どんどん遠ざかる里奈は
あっという間に
駅への曲がり角に入り、消えた。
「…速いな~」
あの歩きの速さに感心しつつ
俺は里奈が急いだ理由を
頭の中でひらめかせた。
そう、里奈は
電車に乗り遅れたら
完全に遅刻するからだ。
もちろん俺も。
だけどもう俺は……
どんなに頑張っても
あと30秒じゃあ、無理だ。
「あ~…最悪」
宿題を忘れた上に
このペースじゃHRにも
間に合わない。
完全完璧に、遅刻だ。
だから俺は
もうふっ切れて、ゆっくり
雨にあまりあたらないよう
地面を踏みしめて歩くことに。
それもそれで
いいかもしれないな。