柚時雨
少し歩くペースを落とした俺は
ふと、マンションの奥の
小さな公園に目をやった。
そのときだった。
俺の心臓が
突然大音量で鳴り出したのは。
雨に濡れ、錆びれたブランコ。
鮮やかにも見える
深緑色の大きな傘が目に入り
思わず立ち止まってしまった俺は
音を鳴らして生唾を飲んだ。
こんなに湿気があるのに
驚くほどに真っ直ぐで艶めいた
綺麗な黒髪に
雪のように白い肌。
知らない学校の制服を着た彼女。
大人びても見えるが
ひどく幼いようにも見えた。
そんな彼女は
ザーッと降り注ぐ雨も気にせず
しゃぼん玉をふうーっと
たくさん空に飛ばしている。
俺の心と体は
彼女に向いたまま
微動だにしなくなっていた。