柚時雨


 少し歩くペースを落とした俺は

 ふと、マンションの奥の

 小さな公園に目をやった。





 そのときだった。

 俺の心臓が

 突然大音量で鳴り出したのは。





 雨に濡れ、錆びれたブランコ。

 鮮やかにも見える

 深緑色の大きな傘が目に入り

 思わず立ち止まってしまった俺は

 音を鳴らして生唾を飲んだ。



 こんなに湿気があるのに

 驚くほどに真っ直ぐで艶めいた

 綺麗な黒髪に

 雪のように白い肌。

 知らない学校の制服を着た彼女。


 大人びても見えるが

 ひどく幼いようにも見えた。



 そんな彼女は

 ザーッと降り注ぐ雨も気にせず

 しゃぼん玉をふうーっと

 たくさん空に飛ばしている。


 俺の心と体は

 彼女に向いたまま

 微動だにしなくなっていた。



< 8 / 40 >

この作品をシェア

pagetop