柚時雨




 「……い、…い、おい!」


 「は!?」




 ガタン!と大きな音を立てて

 椅子が床に倒れた。

 その音で我にかえった俺は

 クラスの奴らにクスクスと笑われ

 自分が何かやらかしたと

 気付かされた。



 「おまえは、目を開けて寝れるのか」

 「えっ!あ…いや、無理っす」


 かはははは、と笑った先生は

 俺に何か当てようとしていた。



 「じゃあ、宿題の古文訳
  全部答えてくれ。罰だからな」

 「え…あ~、はい」


 勘弁してくれよ…。

 宿題なんかやってねぇし。

 里奈は代わりに

 やってくれなかったしな…



 どうしようか迷って

 ひたすらノートをぺらぺらと

 捲っていたとき。



 後ろから回ってきたノートに

 【奏ちゃんバカだね】と書いてあり

 その横には、古文訳がつらつらと

 丁寧に書かれてあった。


 それは、間違いなく

 里奈のノート。

 わざわざ離れた席から

 回してくれたのだ。



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