彫師と僕の叶わなかった恋
気 付 き
気付き ・・・・1

スタジオに着くとレイさんが椅子に腰かけ暇そうにしていた。

僕はレイさんが、怖そうなのであまり話かけたく無かったが

延期してもらわないと代金が支払えないのでレイさんに話しかけた。

「すみません、安藤と言いますが予約の延期をお願いしたいのですが」

と言うとレイさんは「はぁ~」とちょっと馬鹿にしたような対応で

僕は少しムッとした。

「で、何時に変更すんの、結構Akiさん忙しいから延期するならそっちの
希望通りにはいかないかも知れませんよ」

「二、三か月先に延ばしてもらえませんか」

「え?そんなに。そしたら一度予約取り消して
改めて一か月前とかに連絡してもらって予約取り直してもらう形ですね」

「そうですかー。でも一ヶ月前に再度予約をし直すと
そこからまた数か月待たないとならないですよね。
今日、Akiさんの空いてるスケジュールで予約の仮押さえとかできませんか」

「いやー、それってそっちの都合でしょ。キャンセルとか多いいから
そういった事やってないんですよ」

「すみません、支払うお金用意していたんですけ
盗まれちゃってそれ貯めるまで、絶対にキャンセルはしませんから」

「無理ですって、そっちの都合ばっか言われても困るんですよ。
言わして貰うけど、大体あんた彫るのにデザインも考えてこないで
全部Akiさん任せじゃないですか、そう言う安易な気持ちで彫って貰いたく
無いんですよね、こっちとしては」

僕は何も言い返せなかった。

この世界、いやどこでもレイさんの言っている事の方が正しいのかもしれない。

僕は僕の都合しか考えて無かったのだ。

「そう言う事なので、お金貯まったらまた連絡してください。よろしくー」

とレイさんに冷たくあしらわれて帰ろうとしていた丁度その時

「レイ、ちょっと」と言いAkiさんが現れた。

僕はAkiさんが突然現れた事に驚いてしまった。

このお店はお客さん用と従業員用の出入り口がそれぞれあって

Akiさんは従業員用の入り口から入って来て、このやり取りを聞いていた様だった。

Akiさんはレイさんを奥の部屋に呼び何かレイさんに言っているようだった。

「レイ・・あんた・・でしょう・・・・」

「はい・・・・でも・・・・」

「いいから・・でしょう・・・・」

奥から話し声が聞こえて来るが、何をしゃべっているのかまでは

良く分らなかった。

暫く経ってAkiさんが出て来て

「レイから理由は聞きました。災難でしたね。内金ももらっていますし
前回もちゃんと予約守ってくれているので仮予約はできますから
安心して下さい。ただ本当に仮予約なので一ヶ月前には連絡を下さい。
その時点でもし変更が有るようでしたら、済みませんが
再度予約を取り直してもらう形に成りますけどいいですか」

「ありがとうございます。必ず一ヶ月前には連絡しますので
本当にありがとうございました」

僕は一安心してスタジオから家に帰った。

レイが奥から出て来て「Akiさん何であの人だけ特別ルールなんですか?
一ヶ月位なら分りますけど、二、三ヶ月っすよ。今までそんなのないじゃないですか」

「別に特別って訳じゃ無いよ、前例が無かっただけだよ。
他のお客さんは早く彫りたいからその日が都合悪くなっても
次の空いてる日で予約するから二、三ヶ月先なんて言うのが無かっただけで
別にそんなルールは無いから」

「それに、今まであんなに時間かけてデザインの打ち合わせなんてした事
無かったじゃないですか、なんであの人だけあんな時間掛けるんですか」

「ああーあの人は見るからに素人でしょう、それが彫る気でうちに来てくれたんだから
面倒見るのがプロの仕事でしょ」

「はぁ、分りました」

★★レイとの話をした後、Akiも何でこんな特別ルールを勝手に作り

レイに嘘までついたのか自分でも、分らなかった。

デザインも時間を掛けているとは思っていなかったのに

つい他の人より丁寧にしてしまっている事を

レイに言われるまで気が付かなかった・・・・★★
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