彫師と僕の叶わなかった恋
障 壁 ・・・・4

僕は負け犬だった。

安定した仕事にもつけず、将来は不安で、プライドもなく

土下座しろと言われれば土下座までしてしまう。

そんな僕がどうしてAkiさんに恋など出来るものか。

そう思って、諦めようと思えば思う程Akiさんに会いたくなる。

20歳程も年が離れているのに、話しをしたくなるのは何故なんだろう。

考えれば考えるほど頭が変になりそうだだった。

Akiさんには彫らなければ会えない、そう思った僕は

もう一度自分の気持ちを確かめようと、スタジオに予約の電話を入れた。

「あ、安藤と申しますが予約をお願いしたいんですが」

思ってはいたが、電話にはやはりレイさんが出た。

前回と同じくすんなりと予約は出来たが怪しいものだ

“当日、行く前にもう一度スタジオに電話してから行けばいい”

と思い電話を切った。

でも、そんな事はどうでも良かった、また同じなら今度は自分で

無理矢理にでもAkiさんの予約みて、予約日を取るか

Akiさんを探し出すまで帰らないつもりでいた。


予約日当日、僕は考えていた様にスタジオに電話をした。

「もしもし、今日Akiさんに予約を入れている安藤と申しますが
今日はAkiさん出勤されてますか?」と言うと

レイさんではなく、若い男の声で

「はい、おりますよ」と教えてくれた。

よし、僕の作戦は成功した。レイさんもようやく気が済んだみたいだな

これでAkiさんに会って自分の気持ちを納得させよう

と思いスタジオの有る渋谷へと向かった。

スタジオに着くといつも通りカウンターにレイさんが座っていた。

そして若い男と話をしている。

「すみません、今日Akiさんに予約した安藤ですが
Akiさんいますか?」

と言ってスタジオに入るとレイさんと若い男がこちらを見つめて来た。

ん?若い男の方に見覚えが有る。

前に来た時にやっぱりレイさんと話をしてて、確か・・・・シンジって

呼ばれてた。

レイさんと一緒になって僕を馬鹿にしてニヤニヤしてた男だ

それに・・・・あ、あいつガソリンスタンドに来ては

嫌がらせしたヤツだ!

僕はこの時初めてこの二人がグルだった事を知った。

レイさんは何でそこまでして僕が憎いんだろう?

ちょっと気に障った様な事もしたけれどそれがこんなに

嫌がらせをする程の事だろうか。

と考えていると、レイさんが

「今日はAkiさんいないし、安藤さんの予約も入って無いですよ」

と言ってまたシンジと呼ばれている子と話を始めた。

僕は「そんな事ないですよ、だってレイさんこの前電話した時に
今日で予約取ってくれたじゃないですか、それに朝電話したら
今日はAkiさん出てるってスタッフの人が言ってましたよ」

と必死で食い下がった。

レイさんは冷ややかに

「安藤さん、うちも困るんですよね。前回もそうですし、
予約日でもないのに来て、Akiさん出せって言われても
ちゃんと予約取ってから来てもらわないと、他の人の予約もありますから」

と言ってまたシンジと呼ばれる子と話し始めてしまった。

どうやったら予約が取れるんだ?

万に一つの可能性でAkiさんが電話に出てくれるまで

掛け続けなければ予約が取れ無いじゃないか。

僕はもう負け犬でもいい、でももう一度Akiさんに会って

自分自身の気持ちを確かめたかったので、無我夢中で

「今日、ここで予約を取らせて下さい、そして予約表を見せてください」

レイさんは「だから安藤さん、何度も言ってるでしょ。
ちゃんと電話で予約をしてからでないと彫れないんですって。飛び込みで
来ても無理なんですよ。そんな事あんたより年下のこのシンジって
ガキでも知ってますよ」

するとシンジも調子に乗って

「おじさん、業界の事は最低限でも勉強して来ないと見苦しいですよ」

と生意気にもそう言って来た。

その声は、あの時ガソリンスタンドで僕の頭を踏みつけた若い男の子と

同じ声だった。

僕はそれでも食い下がり

「それじゃあ、朝電話に出た若いスタッフの方に聞いてみてください」

「え?今日はこのスタジオ朝からずーっと俺だけしかいないよ」

とレイさんが涼しい顔で言った。

僕は知っている、レイさんが嘘を付いてる事を。

そして、電話に出たのがシンジだと言う事もこの時点で分っていた。

“どうしたらこの分厚い壁が乗り越えられるんだろう?

なぜそんなに嫌われなくちゃいけないんだ?

お金を払うって言ってるんだからそこまで拒否する事も無いだろう”

と考えていた。

すると、レイさんが「判ったら帰ってくれません。
どっち道、今日は彫れませんから」と最後通告を出された

そして、シンジが口を開こうとした瞬間、スタジオの入り口が開いた。

一瞬三人が固まった。

三人が同時に入り口を見る。

僕はAkiさんがそこに立っていてくれと思いながら振り向いた。

が、立っていたのはAkiさんではなく千野さんだった。
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