彫師と僕の叶わなかった恋
一心で ・・・・3

ある時、あんまり好きではないといっていた“映画”を見たいと

Akiさんが言って来たので、別に行きたい所も思い浮かばないでいた

僕は、逆にAkiさんから助け舟出してもらえたので、映画を観に行く

事にした。

映画はアメリカのコメディー映画で平日とあって人も少なく

観やすい席に座る事が出来た。

映画館に入ってからAkiさんの様子がなんだか少しおかしな気がした。

特に何がと言われても困るけど、表情が少し硬い気がする。

僕は「どうかしました?何か緊張しているみたいですけど?」と聞くと

「え、あ、別にそんな事ないですよ。あ、トイレ行ってきますね」

と言ってトイレに行ってしまった。

その後、映画が始まり周りで笑い声がする中で

ふと横を見るとAkiさんは映画を観ながら泣いていた。

しかも、声を押し殺して泣いている。

僕は、声を掛ける事も出来ず、2人とも映画の内容を覚えて

いないまま映画を観終わり映画館を出た。

Akiさんは腫れた目で「映画笑えたね」と嘘をついた。

僕も「大爆笑でしたね」と嘘をついた。

その日はお互い変に疲れてしまい、そのまま帰る事にした。

★★Akiは家に着くと、一枚の写真を取り出し

「今日ね、昔トオルと観に行った映画を観に行ったよ
あの時は面白くて涙が出たけど今回はトオルを思い出して
泣いちゃったよ」

Akiは写真をじっと見つめていた。

「何で何にも言ってくれないの?
昔は笑わせてくれたり
慰めてくれたりしてくれたのに何で今は何も言ってくれないの?」
大粒の涙を写真に落としながらトオルに話し掛けていた。

「もうそろそろ私、人を好きになってもいいかなー?
もう一人のままじゃ切ないよ。トオルの事は忘れないから
許してくれるかな」

Akiはマサルの事が好きに成りかけていた。

だから、トオルに許しを得たかったのだ★★

家に着いた僕は、Akiさんが泣いていた理由が分らず、悩んでいた。

“映画館に入った時から様子がおかしかったけど

まさかコメディー映画であんな泣き方をするなんてただ事じゃない。

でも、聞く勇気も無いし、Akiさんもきっと理由は

教えてくれないだろう“と思いこの件は僕の心の中に封印する事にした。

何度目の彫だろうか?以前は小さかった事も有るけど、出来て行くのが

嬉しくて数えていたけど。

でも、今はAkiさんとのデートの方が嬉しくて途中から

何回目の彫か分らなくなってしまった。

小さなブースで“ジー・ジー”と毎度のごとく機械の大きく唸る音が響く。

何処をどう彫っているのか、想像がつかないが、あっちに曲がり

こっちに曲がりとAkiさんが一生懸命に彫ってくれている。

あの時以来、2人とも何だか気まずい感じがしてお互いに話かけるのを

躊躇っていた。

ようやく彫が終わるとAkiさんが「筋は終わりましたよ
次からは色を入れて行きますね」と言った。

僕は心の中で“色が入れ終わったらもうAkiさんに会う事も

無くなっちゃうんだな、あと何回会えるんだろう”

と僕の気持ちは焦っていた。

それから色入れまで、気まずくてAkiさんをデートに誘う事も

出来ずに、日にちが過ぎて行った。

勇気の無い僕は色入れ初日もデートに誘う事が出来なかった。

心に封印したはずなのに、どうしてもあの日の光景が頭から離れなかった。

Akiもトオルとの思い出の場所に行くのにマサルをダシに

使ってしまった事を後悔していた。

マサルは見てないふりをしていたが、多分見られていただろう。

マサルとデートがしたく無い訳ではなく、殆ど全てのデートスポットは

トオルとの思い出の場所なので、またトオルに会いたくなってしまいそうで

怖かった。

トオルだけを愛して行こう、そう決めて生きて来たのに、

マサルの存在がそれを否定しようとしている。

マサルに心が揺らいでしまっている自分が怖かった。

思いを断ち切ろうとすればするだけ苦しくなる。

自分でも、込み上げてくる思いを抑えられなくなっている事に

気づき始めていた。

次の色入れが始まった。

同じように“ジー・ジー”とお大きく唸るような機械の音が響く。

色入れの後、鏡で背中を確認したら斜めになって見づらかったけど

イメージ通りの感じに色が入っていた。

“この分だと後2、3回位で全てが終わっちゃうな”と思うと

Akiさんに、もっと会っておかなければ、と言う思いが込み上げてきた。

色入れが終わり、もうチャンスが残り少ないと思った僕はAkiさんに

「今度」と言いかけたところで、Akiさんが

「マサルさん、来週食事に行きませんか」

とAkiさんから誘ってくれた。

僕は不意を突かれ直ぐには言葉の意味が理解できなかったが

何かに誘われた事は分ったので言葉の意味を理解しないまま

「はい、是非行きましょう」と言った。

「じゃあ、どこに食事に行くかはマサルさんが決める番だから
いいお店期待してますよ」と言っていつもの笑顔を見せてくれた。

僕は「任せて下さい!前の所よりビックリさせるお店を
チョイスしておきますから」と請け負った。
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