彫師と僕の叶わなかった恋
出会い ・・・・4

僕は、初めての経験だし、また次回行けば分るだろうと思い

考えるのを止めた。

今度は色入れの日が来たが、お金の関係で三時間だけにしてもらった。

僕はまた、Akiさんの真剣な顔をチラチラと見ていたら

三時間なんて“あ”と言う間に彫り終わってしまった。

でも何だこの時間の過ぎたのとは違う感覚は。

色入れが途中って事は初めから分っていた事で

それに徐々に出来上がって行く楽しみがあるから理由にはならない。

それでも、前の時よりも、もっと中途半端と言うより何か物足りない気がする。

それからも、何度か通っているうちに彫り終わった後に少しAkiさんと

話をする事が出来る様になった。

と言っても

「師匠はいるんですか?」とか

「やっぱり初めは自分の腕とかで練習するんですか?」

などこちらの一方的な興味の話を振るだけだったけどお金が無いので

一回を数時間の彫にしてもらっていた関係で

彫り上がるまでに結構時間が掛かってしまった。

Akiさんと話す機会が増えるごとに、あの中途半端気持ちが

徐々にだけど、薄れて行く気がする。何度目だったか覚えていないけど

いつもの様に作業中チラチラと見ていたら、終わった後

Akiさんから「作業中、チラチラと見てませんでしたか?」

と確信を得ながらも疑問形で言われ。

僕は「あ、いえ、作業の進捗とか、どうやって彫って行くのかに

興味があって・・・・見てたんです」

と、しどろもどろに成りながらも最もらしく答えた。

Akiさんは悪戯っ子のような笑みで

「そうですか」と答え道具の片付けに戻った。

その後Akiさんから

「この後すぐに次の仕事が入っているので申し訳ないですが、受付に”レイ”という
スタッフがいるので、お会計と次の予約をしていってくれませんか」

と言われたので、受付に行くと、Akiさんを呼びに行った

全身TATTOOだらけのお兄ちゃんがいた。

僕はこの人がレイと言う人なのかと思い、言われた通りに

お会計と次の予約を入れて家に帰る事にした。

早く完成させたいのだけれど、完成すればAkiさんに会えなくなる。

その前にアルバイトの身ではTATTOOに充てられるお金には限りがある。

それでも全栄養素を昼のコンビニ弁当で賄い

夕飯は抜かして食費を削りTATTOO資金に充てていた。

僕はTATTOOを入れ始めてからこの生活で三キロも痩せたが

それでも前に比べれば楽しみを見つけ、充実した日々を送っていた。

この際、アルバイトを掛け持ちしようかと思ったけど、この食生活と年齢では

そう長くない期間で倒れる事は目に見えているので、止めておいた。

とうとう今日で彫るのも最後の日が来た。

Akiさんはいつもと変わらず、平然とした顔をしているが

僕は何だかとても複雑な気分だった。

Akiさんと初めて会った時から三か月、長かったような短かった様な

本当にこれで自分の何かが変わるのか?自分ではまだ何も分らないままだった。

最後の刃が入り始める。

この半年間の色んな思いが頭の中を駆け巡り、そして腕には少しずつ

僕に足りなかった物を埋めるかの様に色が入って行った。

最後の仕上げは全てAkiさんにまかせて

僕はただ、終わるのを待つと決めていた。

ふいにAkiさんの機械音が止まりAkiさんの声がした。

「これで全部終わりましたね」と全行程の終わりを告げた。

僕は一言「ありがとうございました」と丁寧にお礼を言った。

もうこれでここに来る事は二度と無いだろう。

あの物足りなさが何だったのかは今でも分らないけど

僕は当初の目的をAkiさんのお蔭で達成する事ができた。

これからは自分自身の問題を、Akiさんが入れてくれた

このTATTOOに恥じない様に頑張らなければいけないと

自分の中で何度もつぶやいた。
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