例えば星をつかめるとして
私ばかり意識してしまって、悔しいと思った。けれど叶多に意趣返しが出来るとも思えない。そもそも、そういう感情を抱くのかどうかすら定かではないというのに。
だから私は、今の状態から何かを動かすつもりも、想いを告げるつもりも、なかったのだけど。
「……星が綺麗、ですね」
ぽつり、言ってしまったのは、多分悔しさからだと思う。
もちろん、有名なかの夏目漱石の逸話からだ。彼は、『I love you.』を『月が綺麗ですね』と訳したと言う。あなたと一緒に見上げる月は一層綺麗に見える、みたいな理由があるとかないとかって話だったけれど、私がそれを言うのなら、月ではなくて星だ。だって、叶多がいなければ、私は頭上の小さな光を、忘れてしまっていたと思うから。
伝わるとは、思っていない。普通の人だって、知らない人も多いような逸話だ。叶多が知っているはず無いだろう。
ただ、そう言うことで、何となく仕返しが出来たような気がして、私は満足していた。叶多の知らないところだけで済んでしまう、私の小さすぎる反撃。
叶多は、何だと思うだろうか。唐突に敬語を使った私を訝しむだろうか。
少しわくわくしながら見守ると、彼は一瞬目をぱちりとしたあと、にっこりと微笑んだ。
「……うん。星が、綺麗ですね」
「……っ」