例えば星をつかめるとして
私は慌てて黒板の右端を見る。そこには確かに、私と星野の名前が書かれていて。

うちのクラスは日直を出席番号順で二人ずつまわす。今までは藤原くんと日直のペアだったけれど、そう言えば星野という苗字はちょうど藤原と松澤の間に入るじゃないか。

ほんの数瞬前の、なるべく関わらないようにという決意は実現されそうにないことを悟る。

「とりあえず日誌受け取ったんだけど、」

「……私書く。書いたことないでしょ」

それでも、なるべく関わらないようにしたくて、私は一方的にそう言って、彼の手から日誌を取った。

「ほんと?ありがとう」

にこりと、昨日見たのと同じ、害意の感じられないふわりとした笑みを浮かべて、彼は私に礼を言った。



* *



黒板の文字を眺める。時折自分のノートにそれを写す。教科書を興味深そうにペラペラとめくる。

全部、不審なところはない。至って普通の、高校生の授業中の行動であろう。内職したり居眠りしないからなかなか模範的ですらあるかもしれない。

私ではなく、隣の、"星野叶多"の行動である。

とりあえずは、変なことをするつもりはないらしい。何が妙なことをするのではと気が気ではなかったけれど、それは杞憂だったようで、彼はただ普通の生徒としてそこに在った。

それでも、得体の知れないものが同じ教室に、しかも隣にいるとなると落ち着けるものではない。今日の授業中、私はずっと自分の板書の合間にちらりと彼を盗み見ていた。
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