例えば星をつかめるとして

「……教科書忘れたの?」

「へ?」

なんとなく予想していたのとだいぶ違う言葉に、思わず間抜けな声が漏れた。なんだ、その反応は。

「いや、松澤さんも教科書を使ってるから別に忘れたわけじゃない……ということは……ええと……参ったな、わからないや」

けれど星野は、私の反応に構わず、一人で何やらぶつぶつと考え込み始める。いよいよ、こちらの反応に困ってしまう。 するとそのタイミングで、ちょうどよく終時の鐘が鳴り響いた。

星野は何か言おうとしたけれど、椅子のガタガタいう周りの生徒が立ち上がる音にかき消されて、こちらには届かない。

「やっとお昼だー!澄ちゃん、ご飯食べよう!」

左隣から、大きく伸びをした真理の声が飛んでくる。さっきの授業はもう四限だったのかとようやく気付きながら、私は真理に向かって口を開く。

「ごめん真理、ちょっと用事あるから先食べてて」

「そうなの?わかったー」

「ありがと」

短く会話を切り上げて、それから右に向き直る。星野が、きょとんとした表情で私を見つめた。

「……ちょっと話あるんだけど、来てくれる?」



* *



そうして私が星野を連れてきたのは、人気のない屋上だった。

突然の呼び出しに、星野は嫌な顔一つせず応じてくれた。もしかしたら、私が呼び出した意図を理解してくれているのかもしれない。

さて、どう切り出そうか。足を止めて星野に向き直って、私はしばし沈黙した。
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