例えば星をつかめるとして
「僕の力でどうこうなんて出来ないよ。ばらばらになってなければもしかしたら出来たかもしれないけど、欠片だし」
困ったように彼は笑う。信じられる根拠は彼自身の言葉しかないのだけれど、その表情にはやはり不審な色は見られない。その言葉を信じることにしよう、と思った。
気を取り直して、私は次の質問を口にした。
「ということは学校は初めてだったのよね? 随分と慣れてるみたいだったけれど」
今日の授業中、違和感なく溶け込んでいたことを思い出す。完璧に擬態出来ていた。不審なところなど見当たらなかった。
「それは、君に学校の記憶があったから、かな」
「……どういうこと?」
けろりと答えた彼に、聞き返す。その言い方だとまるで、私の記憶をもっているようにも聞こえてしまう。
「受肉の時に、遺伝子情報でなく君の知識も読み取ったんだ。だから僕はこうして人間の、しかもこの島国の言葉を使えているし、怪我をしたら痛いこともわかってる。人間の、日本人の、高校生としての知識はある程度はもっている。勿論完璧に君の記憶や知識をもっているわけじゃないから安心して」
「……なるほど」
説明に、納得する。知識をコピーされたとかの嫌悪感よりも先に、その手段は合理的だと思った。人間の肉体を得て、人間の知識をも得る。そうすることで、確かに違和感なく溶け込むことが出来るだろう。
「君から見て、どう? "星野叶多"は、ちゃんと高校生になれているかな」
星野が、真剣な表情で問う。少し考えて、私は頷いた。