イケメン伯爵の契約結婚事情

しかし、いい反論も思いつかず黙ってうつむいていると、フリードの手がエミーリアのそれに重ねられた。


「頼むよ、エミーリア」


懇願の響きがある声に、頷かないほど意固地なわけでもなかった。
エミーリアは力なく、こくこく、と二度ほど頷く。


「……今未亡人にさせられては契約違反です。絶対帰ってきてください」


精一杯の意地で返事をしたら、小さく笑う声が聞こえた。


「本当にお前は面白い」


彼の言葉は柔らかな温度を持って、エミーリアの胸に広がっていく。


(この人が、好きだ)


心の底から、思う。もっと彼を知りたいと思うし、力にもなりたい。
待っていることが彼の役に立つと言われては頷くしかないが、離れたくないという思いもまた強かった。

複雑な心境を持て余していると、フリードがひょいとエミーリアの手を引き寄せる。


「ところで、この指はどうしたんだ? やたら傷だらけだが。また部屋から抜け出そうとしてるんじゃないだろうな」

「あっ、これは。そ、その内緒です」


ひっかき傷がたくさんある指を、エミーリアは真っ赤になりながら慌てて隠す。


「なんだ? 夫に内緒にするようなことがあるのか」


からかう種を見つけて喜ぶ子供のように、フリードが笑顔になる。それに一瞬見とれつつ、エミーリアは咳ばらいをして澄ましてみせた。


「帰ってきたら教えて差し上げます」

「ほう」

「だから。絶対無事に帰ってきてください」


真摯に見つめてくる妻を、フリードは眩しそうに目を細めて見つめた。

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