イケメン伯爵の契約結婚事情
息を切らし、頬を伝う汗をそのままに、馬上から飛び降りてくる美しい少女が目に入り、一もにもなく駆けだし、抱き留める。
「エミーリア!」
「無事ね? 私分かったのよ。毒の正体」
「ハチミツだろ? お前、食べなかったのか?」
「知ってたの? 私、あなたがお茶にでも入れて飲んでしまったらどうしようって追ってきたのよ」
必死な顔でフリードの頬を撫でてくるエミーリアに対し、フリードも彼女の無事を確かめるべく顔を覗き込む。
「お前は馬鹿か。叔父上が犯人だとわかってて、馬で飛ばしてくるなど危険だろ」
「だって、心配だもの。……それに」
エミーリアは少し口ごもると、バツの悪そうに上目遣いでフリードを見上げた。
「……少しくらい羽目を外しても怒らないって、あなた前に言ったわ」
その言葉に、フリードは全身の緊張がほぐれていくのを感じた。同時に、愛おしさがあふれるように沸き上がってくる。
「……いつの話だよ。馬鹿」
「馬鹿馬鹿言わないでよ。失礼ね」
「自分を大事にしてくれ。そうじゃないと俺は……」
彼女の体を抱いたまま、フリードは顔をあげる。
肩越しに見えるトマスは申し訳ないような顔をしていて、フリードの視線に気付くと頭を下げた。
「トマス」
「すみません。エミーリア様を止められませんでした」
「いや……いい。俺もお前に謝ることがあるしな」
「は?」
そのとき、屋敷の外にアルベルトが出てきた。フリードは叔父の視界からエミーリアを隠すように背中を向けたが、風にたなびく美しい髪は、その存在を雄弁に語っていた。