イケメン伯爵の契約結婚事情
ぎゅっとつぶった目元を左手で撫でられて、エミーリアははたと思い出した。
「……手は大丈夫なの? 怪我したところ」
「少ししびれはあるな。まあ左の中指だし、そう問題はない」
「私のせいね」
「指一本だけでお前を守れたというなら名誉の負傷だろう」
強く抱きしめられて、恐る恐るエミーリアは彼の背に手をまわした。
“手刺繍のベッドカバーを付けたベッドで抱くということは、その女性のすべてを受け入れるということだ”
古くからの風習を思い出し、エミーリアはほっとして目を閉じる。
大嫌いな刺繍をつづけた日々は辛かったけれど、作ってよかったと思う。
フリードは今の私を受け入れてくれる。
そう信じられて、自分を押さえつけていた不安から解放された気分だった。
疲れているはずのフリードは、唇を重ねるごとに生気がみなぎっていくようだった。
部屋を暗くし、エミーリアの夜着にゆっくりと手をかける。初めての経験に、エミーリアは声が震えていた。
「フリード、私」
「なんだ? もう待たんぞ」
「ど、どうしたらいいのかしら。私、初めてなのよ」
真っ赤になって顔を抑えた彼女の手をフリードはゆっくりと外す。潤んだ瞳も、その恥じらいも、今はフリードの情欲を奮い立たせる要素にしかならない。
「感じるままに声を上げればいい。全部俺に任せろ」
「えっ、あっ」
体をなぞる手は、時に優しく時に激しく、エミーリアのすべての感覚に刺激を与える。
荒くなる息を抑えようとした手もフリードに絡めとられ、エミーリアは感じるままに声を上げた。
「……愛してる、エミーリア」
耳元でささやかれた声に溶けそうになりながら、エミーリアは彼にすべてを委ねた。
初めての夜は甘く優しく、そしてほんのちょっと痛かった。
その涙もすべて、フリードに受け入れてもらい、安心したまま眠りに落ちる。
夢の中で、エミーリアはムートに乗っていた。隣には大きな黒馬に乗ったフリードがいて、笑顔でエミーリアを見つめている。
もう自分らしさを隠す必要はない。ありのままでもフリードは私のそばにいてくれる。
幸せなその夢をずっと見ていたいと思った。