イケメン伯爵の契約結婚事情
メラニーは魔法使いのように、すぐさまドレスを調整し、体にぴたりと合わせアレンジまでやってのける。
着替えを終えたマルティナは、鏡の中に映る自分に瞬きをした。
みすぼらしい少年はどこにもいない。今ここにいるのは豪奢で美しい少女だ。まるで夢見ていたような姿に、嬉しい反面落ち着かなくなる。
「さあ、できたわよ。トマス、入って。……あら、フリードも来てたの」
「入ろうとしたらトマスに止められたんだ。なんだ? マルティナの着替えか?」
「ええ。ほら可愛いでしょう?」
中に、フリードとトマスが入ってくる。
マルティナは体をびくつかせた。領主だという兄にとって、自分は母親の不貞の子だ。見るのも目障りだろうと思えばこそ、彼の前では萎縮してしまう。
フリードは、ワインレッドのドレスを着たマルティナを見るなり息を飲み、そしてふっと口元を緩ませる。
「どこかで見たことがあるなと思ったら……母上の好きな色だな。そうしていると母上に似て見える」
その反応は予想外だった。
(笑った。しかも、母上の好きな色を覚えている)
マルティナの存在さえ知らなかったことを考えれば、フリードは母にはもう十三年以上は会っていないはずだ。
なのに、すっと言ってのけたことに、マルティナは驚きを隠せない。
「ご存じなんですか?」
「ああ。昔からここぞという日にはワインレッドの服を着ていたな。子供の目にもわかりやすく、この色を着ているときは機嫌がいいんだ。思えば子供っぽいところのある人だったな」
「そうなんです。お母さまは……」
急に視界がうるんで、マルティナはびっくりして言葉を飲み込んだ。
頬を何かが伝っている。
訳が分からなかった。なぜ今泣きたくなるのか。