イケメン伯爵の契約結婚事情
「あ……」
「どうしたのマルティナ。何か嫌だった?」
心配そうにのぞき込むエミーリア。
違う、そうじゃない、と言いたくて言えずに黙り込んでいると、すっとハンカチが差し出された。その大きな手はトマスのものだ。
「エミーリア様、泣くのが悲しい時とは限りませんよ。……お似合いですよ、マルティナ様。亡くなったお母上にも見せたかったですね」
“きっと似合うとおっしゃってくださったでしょう。”
続けられた言葉に、涙が止まらなくなる。
――ああまた。
マルティナはハンカチで涙を拭きながら思う。
この従者様はどうして、私の気持ちをこんなに的確に言い表してくれるのだろう。
今まさに胸に湧き上がる感情も、マルティナはうまく言葉にできない。
ただ、トマスの服の裾をつかむことで、ここにいてほしい、と訴えた。
優しい人に囲まれた、新しい暮らし。でもそれをうまく受け入れられない自分。
傍にいてほしい。うまく言葉が紡げるようになるまで。
フリードはその姿を見て頬を緩める。
「どうやら気に入られたな、トマス」
「はあ。……困ったな。どうしましょうか」
「あれやればいいじゃない。ほら、私が昔せがんだやつ」
「はあ」
トマスはちらりとフリードを見て「怒らないで下さいよ」と前置きをすると、半泣きのマルティナの足を抱え、腰が彼の肩にあたるくらいまで持ち上げた。