イケメン伯爵の契約結婚事情
「入浴場所については侍女殿に伝えてあります。ごゆっくりお入りください。その後は、鍵をかけずに寝室でお待ちください」
「え?」
ぽかん、と見つめ返すと、ディルクはにっこり笑ったまま続けた。
「後はフリード様とごゆっくりなさいませ」
そこでエミーリアはあらためて気づく。
契約とはいえ、花嫁になったのだった。と考えれば今夜はいわゆる初夜だ。
(でも、妻としての役割は求めないって、言ったよね?)
でも、もう自他ともに認めるフリードの妻だ。当たり前だが寝室も一緒。
もし寝込みを襲われた場合、自分に拒否権はあるのだろうか。
途端に落ち着かなくなり、エミーリアは部屋中を歩き回る。
メラニーはどこに行っているのかおらず、一人きりだから余計頭がぐるぐるしていた。
と、部屋の扉がノックされる。
「誰?」と問いかければ、「トマスです」と聞きなれた声がした。エミーリアはほっとして中に入るように言ったが、トマスは「ここで」と頑なに扉前から動かない。
「ムートの様子を伝えに来ただけなんです。今は厩で大人しくしておりますよ。お嬢様があの黒馬に乗ったときは嫉妬なのか興奮してましたけどね」
「そうなの。良かった」
「今まで通りお嬢様の警護役にも付かせていただきました。御用のある時はいつでもお声がけください」
「そう。ありがとう」
「では。お疲れでしょう、ゆっくり休んでください」
大きく礼をしてトマスは扉を閉めた。
見慣れた人間の存在は緊張をほどいてくれる。エミーリアはほっとしてやっとくつろいだ気分になった。