イケメン伯爵の契約結婚事情
その後、メラニーが戻ってから浴室へ向かう。
一人がゆったり入れるバスタブに、広い洗い場。貴族は着替えや入浴に関しては、侍女の手を借りるのが普通だ。
メラニーはエミーリアの体を洗い流しながら、真顔で「いつもながらお綺麗です」とほめそやす。
「おじょ……奥様。力を抜いてフリード様にお任せなされば大丈夫ですからね」
エミーリアは最初何のことを言われているか分からずにいたが、丹念にこすられる自分の肌を見てようやく意図を理解する。途端に顔が赤くなった。
「え、えっと。メラニーはそういう経験あるの?」
「やだ、あるわけないじゃないですか。でも私は母からそう聞きました」
「あ、そう。そういうものなの」
そういえば適当に聞き流していたが、実母も何か言っていたかもしれない。
男を虜にするにはとかいう言葉も混ざっていた気がするので、もっときわどいことを言っていたのだろう。母の会話は大抵お小言なので、半分以上聞いていなかった。
自分に覚悟がないのに、周りが御膳立てしていく。
当事者なのに取り残された気分を抱えながら、エミーリアは寝室に入った。
花の匂いが先ほどより強い、と思ったら、見たことのない花が飾られている。
白い百合に似た花で香りは甘酸っぱい。嗅いでいるだけでエミーリアは心臓が落ち着かなくなってきた。