イケメン伯爵の契約結婚事情
フリードはふ、と笑うとエミーリアの顎を右手で持ち上げた。
「それに……噂に違わず美しい。お前は化粧を落とした方が艶っぽいな。その泣きぼくろは確かに人目を引き付ける。そこに唇を落とせと言っているようなもんだ」
「ちょ、何を」
近づいてくる端正な顔。エミーリアの心臓は爆発寸前だ。
とっさに手を伸ばして体を抑えてみるが、力ではかないそうもない。
それに、自分は彼の妻だ。例え契約でも、ここは受け入れるべきなのか。
固く目をつぶって考えているも、フリードからはそれ以上のアクションがない。
恐る恐る目を開けたエミーリアは、彼が手刺繍のベッドカバーをじっと見つめていることに気づいた。
ホッとしたような気が抜けたような感覚に、一人恥ずかしくなる。
「……上手なんだな。裁縫」
初夜のベッドを飾るベッドカバーは、女性としての能力を夫に示すためのものでもある。
このベッドで女を抱くということは、その女性の能力的なものも含め、すべてを受け入れるという証にもなるのだ。
「あ、それは違うわ。作ったのはメラニー……」
教える必要もなかったのに、エミーリアは正直に伝えた。
するとフリードはすっと顎から手を離し、目を細めて自重気味に言った。
「なんだ偽物か。……まあ、似合いか。契約の結婚だもんな」
まるで自分自身さえ否定されたような感覚に、胸が痛む。
契約を持ち掛けてきたのはフリードだ。こちらが罪悪感を抱く必要などないというのに。