イケメン伯爵の契約結婚事情

そのまま、フリードは立ち上がると一人がけの椅子に座りなおした。

間にあるテーブルが壁のように感じられる。
エミーリアが何と言おうか迷っていると、フリードの方が腕組をして口を開いた。


「さて、話をしようか。妻として迎え入れたからには、君の疑問には全部答えるよ。その前に、守ってほしい約束がある。ひとつは、勝手に出歩かないこと。行きたいところがあれば、俺が連れて行ってやるから言ってくれ。あくまでも噂通りの深窓の令嬢として、この屋敷の中でもふるまって欲しい」

「演技をしろってこと?」

「そういうことだ。あとは、なんでも勝手に飲み食いしないこと。今、君の食事を作るのはカールにしか許していない。他の人間、特に叔父上から頂いたものは絶対に口にするな」

「叔父上……アルベルト様ね? 本当に仲が悪いのね」


昼間、農民に向けるフリードの笑顔を見たとき、エミーリアは領主と領民の仲の良い土地なんだと嬉しくなった。
しかし屋敷に入ってからは反対の印象ばかり与えられる。仲が良くて当然と思っていた身内が、ここでは敵対しているようだ。


「……仲が悪いのには理由がある」

「じゃあそれを教えて。あなたとアルベルト様の間の溝はなに?」


アルベルトは机上で指を叩いた。
トントンという一定のリズム音は、興奮する自分を押さえつけようとしているかのようだ。
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