イケメン伯爵の契約結婚事情
「まあいい。この帳簿はもらっていくぞ」
アルベルトが部屋から出ていく。
もっと調べたいことがあったが、帳簿を抜き出していることに気づかれては仕方ない。
やり方を変えなければと考えていると、いつもの無表情でディルクが入ってきた。
「……アルベルト様はなんと?」
「白々しい態度で、いろいろ探りを入れにきていた」
「そうですか」
「……ちょうどいいな。ディルク、エミーリアを連れて領土内を視察したい。数日泊まりでいけるよう、準備を整えてくれ」
「急ですね」
「エミーリアも屋敷の中は飽き飽きしているようだしな。対外的には、新妻を連れての視察ということにしておいてくれ。その方が入り込みやすい」
「かしこまりました」
ディルクは頭を下げ、再び執務室を出ていく。
残されたフリードは、執務室に飾られた歴代当主の肖像画に目をやった。
先代の父親の隣に、先々代、フリードにとっては祖父に当たる人物がいかめしい顔で描かれている。
「……お爺様、このゆがみは、あなたが作り出したんだ」
唇を噛んだフリードは、机の上に、引き出しにしまい込んでいた肖像画が出ているのに気づいた。
エミーリアを娶る前に叔父が持ってきた縁談の相手だ。おそらく書類を探しているときに出したのをそのままにしたのだろう。
「叔父上にしては迂闊だな」
肖像画に書かれているのはバーレ家のロジーナ嬢だ。バーレ子爵家は叔父と仲が良い。前妻に引き続き、フリードを監視できるような相手をつけたかったのだろうが、エミーリアの登場でその目論見もすっかり崩れたことだろう。
あれだけ家柄もよく美しい娘だ。難癖をつけるのは難しいのだろう。
トマスとの噂話も、大方叔父が流しているに違いない。
噂の話をしたときにけろりとした顔をしていたエミーリアを思い出す。普通の令嬢なら、うろたえるか真っ赤になって怒るかするところだろうに。
「……面白いお嬢さんだ」
自然に笑顔が出てしまい、フリードは思わず口元を抑え、辺りを見回した。