イケメン伯爵の契約結婚事情


 それから数日、エミーリアは部屋と書庫を何度も行ったり来たりした。

フリードは忙しそうだし、ディルクはほとんどフリードに付きっ切り。なので、おともにつくのはもっぱらトマスの役目となる。


「エミーリア様が本に興味があったとは初めて知りました」

「失礼ね。別に本は嫌いじゃないわ」

「そうでしたかねぇ」


確かに本にまつわる一番の思い出は、窓から抜け出すときに十冊ほど重ねて足場にしたことだ。
父親が不在で、母親に「今日は部屋で一日裁縫をしなさい」と部屋に閉じ込められ、窓の外に通りすがりのトマスを見つけ、外に引っ張りだすよう命令したときのこと。

全く余計なことばかり覚えている、とエミーリアは軽くにらんだ。


「昔のことは忘れてよ。それに……案外と面白いわ。私の知らないことがたくさん書いてある。もう屋敷内の花の名は全部覚えたのよ?」


エミーリアは興味のある事柄には、ものすごい集中力を発揮する。
狩りや乗馬を覚えたころの瞳と同じ輝きを見つけて、トマスはひとり微笑んだ。


「あなたが男でしたら伯爵やギュンター様にとっても良かったでしょうね。立派な片腕になれそうだ」

「女でもなれるかしら。もしこれから私が勉強して、領地の経営の助けができたら、離婚して戻ったとしても邪魔者にはならないでしょう?」


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