イケメン伯爵の契約結婚事情

「冗談だ。そう緊張するな。……そうだな。今のは契約の口づけだ」

「契約?」

「そう。改めて、俺と君の契約の証のキス」


触れられた頬を押さえながら、エミーリアは淡々と語る彼を見つめる。
頬の温度が少し下がってしまったようだ。


「トマスに叱られるな」

「え?」

「いや。そんなわけで明日は朝が早い。もう寝ろ」


急に距離が遠ざかった気がして、エミーリアは焦るもどうしたらいいのかは分からない。


「……フリードのお部屋にはちゃんとベッドがあるの?」

「どういう意味だ」

「きちんと寝ているのかと思って」

「寝てるよ。心配はご無用だ」

「……そう」


でも心配したいのだ。
エミーリアはそう思って、思ってしまったことに自分で驚く。

勢いよく布団を頭からかぶって、「おやすみなさい」と告げる。

まだドキドキしている心臓をどうやって沈めたらいいか分からず、かぶった布団のせいで暑くてたまらない。

(どうしちゃったのよ、私)


なんだか今までと調子が違う。
胸の動悸は勝手に高鳴るし、自分のことで精一杯なのに、布団一枚隔てた向こうにいる彼の存在を強烈に意識している。


(こんなんじゃまるで……恋でもしているみたいじゃない)


どれくらいの時が経ったのか、ふっと枕もとのランプが消され、フリードの出ていく音がする。
外からかけられた鍵の回る音に、どうしようもなく寂しくなる。
たまにはここにいればいいのに、なんて、覚悟もないくせに思った。

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