イケメン伯爵の契約結婚事情
「……芸術品じゃあるまいし、同じ土地で作られた農作物にそこまでの金額の差が出るのは何かがおかしいんだ。自分の土地でおかしなことがあるのに見過ごすわけにいかない。それに、……叔父は今は自分の管理地のみを要求しているが、いずれは全領土に広げてくるに決まっている。俺に自分が手を回せる女を嫁がせようとしているのはそういうことだろ。傀儡になるのはごめんだ」
「そう……ね」
エミーリアは、フリードが自分が考えるよりもっと先を見据えていることに気づいて驚く。
まだ年若い青年ではあるが、気持ちはちゃんと領主なのだ。
「わかった。私は、興味を惹かれたふりをしてアルベルト様の農地を見させてもらえるようにすればいいのよね」
「そうだ。花畑を中心に見たいと思っている。頼むぞ」
「ええ」
自分はそんな先までは見据えられない。だとすれば、フリードの要求することを少しでもかなえられるように努力しよう、とエミーリアは思う。
白壁の落ち着いた建物に近づいていくと、屋敷の中から使用人と思しき老執事が出てくる。一行を見ると目を丸くして一瞬辺りを見回した。
「これは……フリード様? どうしてこのようなところに。こちらにいらっしゃるなどとは伺っておりませんでしたが」
「やあ、エグモント。叔母上はおられるかな。予定にはなかったんだが、せっかく近くまで来たから、エミーリアを叔母上に紹介したくてね」
「ああ、新しい奥方様でございますね。失礼いたしました。私、こちらの屋敷の管理をしておりますエグモントと申します」
「エミーリアと申します」
頭を下げるエグモントに挨拶していると、奥から女性が現れた。