イケメン伯爵の契約結婚事情

仕立てのよさそうな地味な色のドレスを身にまとい、髪をゆったりと結い上げたその女性は、年齢にして三十歳前後ぐらいだろうか。ひじのあたりまでの長さの手袋をつけていて、一瞬外出するところだったのかしらと思ったが、その割には服装は普段着ともいえるもので、変な違和感を感じた。


「フリード様。まあまあ、このようなところに、珍しいこと」

「叔母上、ご無沙汰しております。急で申し訳ありません。紹介します。このたび妻として迎えたベルンシュタイン家のエミーリアです。昨日から彼女に領内を見せて回っていたのですよ。近くに来たのでぜひ叔母上にもご挨拶したいと思いまして。それに、叔父上自慢の農園も花の盛りかと存じまして」


叔母は、頬に手を当て小さく考え込む仕草をした。


「まあ。……困ったわ。夫からは何も聞いていないのよ。あの人は農園の管理には厳しくてね、了解を取らないと勝手には見せられないのよ」

「内緒にしておいてください。甥っ子の頼みだと思って」


フリードが片目をつぶって見せると、やんちゃな弟でも見るような顔でクスリと笑う。


「全く、あなたはズルいわね。まあ入って、まずはゆっくりもてなさせてちょうだい。エグモント、準備をして」


そういうと叔母はエミーリアに向き直った。


「あなたがエミーリア様ね。お噂はかねがね。本当に美しいお嬢さんね」

「いえ、そんな。あの……なんとお呼びすればよろしいですか?」

「ああ。失礼したわ。私はカテリーナ。好きなように呼んでちょうだい」

「では、カテリーナ様と」

「こちらへどうぞ?」


室内に招かれる。田舎の別荘地という感じのつくりだが、ところどころに置かれている美術品は細工の細かいものばかりで、外観よりも中の方が豪奢な印象だ。

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