イケメン伯爵の契約結婚事情
「……エミーリア様がお戻りとか」
固い声に振り向くと、アルベルトがそこに立っている。
「まあこんな場所にアルベルト様が来られるなんて」
突然やってきたアルベルトに、他の侍女たちは慌てふためく。
「アルベルト様」
「わざわざお戻りになるとは思っていませんでした。一応知らせておかねばと思って連絡しましたが、余計なことでしたかな」
「メラニーは私の大事な側近です。何かあれば駆けつけるのは当然だわ。知らせていただいたことは感謝します」
「そうですか」
鼻で笑うような態度に、エミーリアは苛立ちを隠せない。
「メラニーを私の続き間に戻してもいいかしら」
この場を立ち去りたくて医師に尋ねると、返事をしたのはアルベルトだった。
「しばらくは医師の出入りもありますし、こちらの部屋に留めておいた方がよいでしょう。どうせしばらくはまともに仕事は出来ません。奥方様の侍女には別の人間を用意しましょう」
「いやよ。メラニーは治るわ。私は世話をしてほしいだけでメラニーを側に置いているわけじゃないの」
「ですが、役に立たないものを奥方様のそばに置くわけにはいきません」
毅然とした態度を崩さないアルベルトを折れさせるには権力しかない。エミーリアはフリードに向き直って懇願した。
「お願い、フリード。メラニーを私の続き間に戻して」
それが、アルベルトのプライドを傷つけるとは承知の上だ。
実際、アルベルトの顔がひくついたのをエミーリアは見た。