もう一度君に会えたなら
「ただの幼馴染よ。でも、彼とは同じ高校だから、後輩でもあるけどね。本当にそれだけよ。幼馴染といっても兄妹みたいなものだから、お互いのことを気にしてしまうことはあるのかな。彼女ができたと聞いたときも、どんな子なんだろうって義純のあとをつけちゃったし。彼女には見つかったけど」

 彼女は舌をぺろりと出した。
 それがあのときだったのだろう。
 彼女は幼馴染という言葉をやけに連呼していた。
 そういえば川本さんは幼馴染と彼女から言われたとき過剰に反応していた。
 あれはどういう意味だったのだろう。

「そろそろ仕事に戻ります」
「邪魔してごめんなさい」

 彼女は「気にしないで」と言葉を綴り、踵を返すと戻っていった。

 榮子は彼女の姿が見えなくなってから、短くため息を吐いた。

「幼馴染か。まあ、川本さんは唯香の彼氏なんだから気にする必要はないのかな」
「そうだと思うよ」

 わたしはそう答えつつも、どこかすっきりしなかった。なぜ、川本さんは難しい顔をしたのだろう。
 川本さんが彼女を好きだったとか?
 それに気づいていなかったら彼女の言葉の不自然じゃない
 綺麗な人だし、ありえないことじゃない。
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