奏 〜Fantasia for piano〜
こんなとき、連絡先を交換していたらと思う。
聞いても教えてくれない気がして勇気が出なかったけど、今度聞き出す。絶対に教えてもらう。
弱気なままでは、奏をなんとかするなんて無理だから。
一階から上の階へとしらみ潰しに捜した結果、屋上でやっと見つけた。
出入口のコンクリートの出っ張りの日陰に寝そべって、目を閉じている。
綺麗な寝顔……。
ゆっくりと近づき、隣にしゃがみ、声をかけた。
「奏、寝てるの?」
「寝てるよ」
返事があるということは、寝ていないということだ。
「起きてよ。一緒に模擬店回りしようよ」と腕を引っ張ったら、逆に手首を掴まれ引き寄せられて、バランスを崩した私は奏の上にダイブしてしまう。
目の前には白いワイシャツの胸ポケット。
洗濯洗剤の爽やかな香りや、奏の体温と筋肉の質感がダイレクトに伝わってきて、たちまち心臓が壊れそうなリズムを打ち鳴らした。
「テンポ百二十八。
アレグロでフォルティッシモ」
奏が呟いて、クスリと笑う。
それは私の鼓動の速さと強さを表す音楽用語。
伝わってしまったことが恥ずかしく、慌てて身を起こしたら、奏が目を開けて真っ赤な顔の私を見た。
「どうして綾は、そんなに一生懸命に俺を構うの?」