奏 〜Fantasia for piano〜
自転車を押して並んで歩きながら、取り敢えず「歓迎会は?」と聞いてみたら、「用事を思い出したと言って、行かなかった」と言われた。
「女子だけとは聞いてなかったし、面倒くさい。男子がいても同じだけど」
ということは、用事があるというのは嘘なのか……。
なんだろう、この違和感。
まだ今の奏をよく知らないけれど、幼い頃の彼と明らかに違っている。
あの頃の奏は明るくて、笑顔の可愛い男の子だった。
楽しそうにピアノを弾く奏を見ていると、私も釣られて笑顔になって……。
それなのに今の彼は、冷めているというか、つまらなそうというか……。
会話が途切れてしまい、無言で歩くだけの私達。
すごく気まずいけど、ここは頑張らないと。
十二年の時間で空いてしまった距離を縮めたくて、焦る私はなんとか会話を続けようとする。
「家はこの辺なの?」
「うん」
「すごい偶然だね。私の家はあそこのマンションを曲がった先の一軒家なんだ。
私達って遠い田舎で出会ったのに、この街で再会なんて不思議だよね。しかも同じクラスなんて!」