奏 〜Fantasia for piano〜

チケットを買って観に来てほしいと言われるのかと思い、「いいよ、行くよ」と、聞かれる前に返事をした。

しかし、そうではないみたい。

梨奈は首を横に振った後、私の右手をガシリと握りしめる。


「私と一緒に出演して!
ピアノとフルートのデュオ。お願い、綾!」

「ええっ⁉︎ そんなの無理だよ」


なんでも、中学生や高校生の参加枠もあるみたい。

予定していたどこかの高校生が、なんらかの理由で出演をキャンセルしたらしく、枠がひとつ空いたそうだ。

市民オケの先輩経由で、『やってみない?』と梨奈に連絡が来て、『やります!』と今、返事をしたらしい。


「梨奈、あのね、私ってピアノが下手くそなんだよ。とてもじゃないけど、プロと同じステージに立てない。
吹奏楽の子と、デュオやればいいじゃない」


「音楽を楽しむためのイベントだから、そこそこ弾ければ大丈夫。

デュオでもトリオでもいいけど、メンバーにピアノは必須って言われたんだよ。

クラシックピアノやってる友達、綾しかいない。一生のお願い!」

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