奏 〜Fantasia for piano〜
親友に一生のお願いとまで言われては……どうしようと考えてしまう。
コンクールでいつも予選落ちの私が、クラシック愛好者の集いで演奏するなんて、自信がない。
クラシック愛好者といえば、アコールのマスターも同じだけど、音楽祭のお客さんはチケットを購入して聴きに来るというのに失礼じゃないかな。
梨奈の必死な顔を見たら断りにくく、でも頷けずに困っていた。
すると梨奈に、効果てきめんなアドバイスをされた。
「ね、香月くんにピアノを教えてって言えるんじゃない? もっと仲良くなるチャンスだよ!」
それは……素敵だ!
もしかしたら教えてもらう中で、奏にピアノを弾かせることができるかもしれない。
私にとっては仲良くなることより、そっちの方が重要だった。
期待が膨らみ、梨奈に握られている右手に左手を被せて握り返し、大きく頷く。
「出よう! ピアノとフルートのデュオで」
「やった。綾、ありがとう!」
その日の帰り道。
奏と一緒に校門を出て、地下鉄の駅に向けて歩く。
奏がバイトの日は自転車通学していない。
こうやって堂々と隣を歩けるのは彼女の特権で、一方通行の想いでも付き合えてよかったと思っている。