奏 〜Fantasia for piano〜
地下鉄に乗っている間も、降りてアコールまで歩いている途中の今も、心はソワソワと落ち着かない。
音楽祭のためにピアノを教えてほしいと、言い出すタイミングを計っているのだ。
チラチラと奏の顔を窺っていると、目が合って首を傾げられた。
「綾、どうしたの? トイレ我慢してるの?」
「え、違うよ!」
落ち着きのなさから、そんな勘違いをさせてしまい、焦って言い訳する。
「奏の隣を歩けて、幸せだと思ってただけ。
それと、夕日を浴びる横顔が綺麗だなって思ってた」
路地に踏み入ると、レンガふうの外壁と、ドアの緑色の日差しが見えた。
アコールはすぐそこで、奏は歩きながら視線を私に流し「男に綺麗という表現はどうだろう?」と疑問を投げかけてきた。
「ごめん、嫌だった?」
「嫌じゃないけど、照れくさい。
綾、君がすごく綺麗だから見とれてたーー」
「えっ⁉︎」
「と言われたら、女の子でも恥ずかしいでしょ?」
心臓が跳ねたその後は、例え話だったのかと理解してガッカリした。
見とれられるような美人に生まれたかったな……そうすれば、奏と並んでも釣り合うのに。