奏 〜Fantasia for piano〜
入浴を済ませ、二階の自分の部屋へと階段を上る。
肩までの黒髪はドライヤーを当ててもまだ少し湿っていて、手櫛で整えながら短い廊下を歩いていたら、隣の部屋のドアがカチャリと開く。
十五センチほどの隙間から顔を覗かせたのは亜美で、なぜか眉をハの字に傾けていた。
「お姉ちゃん……さっきはごめんね。ハンバーグ、ありがとう。ちゃんとサラダも食べたよ」
憎めない子。
喧嘩しても甘ったれでも妹だから情が湧くし、こんなふうに謝られると『可愛い奴め』と思ってしまう。
「いいよ。苦手なサラダも食べて偉かったね」
私も大概甘いなと思いつつ、久しぶりに亜美に対して優しい気持ちになっていた。
それなのに「あのね、宿題で分かんないとこがあって……教えて?」と、ちゃっかりした台詞が付け足され、笑顔が消える。
妹の特性なのか、亜美は世渡り上手だと思う。
できるなら、私も妹に生まれたかった。
私にも宿題があるし、一応受験生なのにと思いながらも亜美の宿題を手伝って、一時間後にやっと自分の部屋でひとりになれた。