奏 〜Fantasia for piano〜
錆びついた門の鉄柵に手をかけて押してみると、ギイッと軋む音を響かせ簡単に開いてくれた。
これって不法侵入だよねと、分別はつくのに、懐かしさに背を押されて足を止められない。
敷地の中に踏み入って、玄関前で建物を眺めた。
車のライトは消してあるので、辺りは真っ暗。
窓に明かりの灯る隣家は手の平サイズに見えるほど遠くにあり、畑に囲まれるこの家の前には外灯もない。
でも眺めているうちに暗さに目が慣れ、満月の光に照らされる家の雰囲気が確認できるほどになる。
あそこの板戸を解放すると縁側で、奏のおばあちゃんがスイカや味瓜を切って食べさせてくれたのを想い出す。
朝から『遊ぼう』とこの家に通った私だけど、お昼は自分のおばあちゃんの家に帰って、ご飯を食べてからまた遊びに来た。
随分とお世話になったとしみじみ思いながらあちこち眺めて、この家がやはり空き家であることに気づいた。
郵便受けの入口にガムテープが貼られ、郵便物を入れられないようにしてある。
田舎町の古い家には、なかなか借り手や買い手が見つからないよね。