奏 〜Fantasia for piano〜

美しい和音が一度響いた後は、遠くの蛙の声と風が木の葉を揺する音しか聞こえない。

出窓に明かりもなく、私は大きく息を吐き出した。


なにを期待していたのだろう。
そんなわけないのに……。


芝生をトボトボと歩いて、ピアノ部屋の扉の前に立った。

開けて入りたいけど、そこまでの非常識さは持ち合わせていない。

敷地に勝手に入るだけでも違法なのに、建物の中に入れば、まるで空き巣狙いの泥棒だ。

それに鍵は自宅の宝箱の中で、持ち歩いていないから開けられない。


残念だけど、外観だけ眺めて、寂しく帰るしかないよね……。

そう思ったとき、穿いている仕事用の七分丈パンツの前ポケットが、急に光を放った。

驚いてポケットを探り、取り出したものを見て目を見開いた。

なんでこの部屋の鍵が入ってるの?
家に置いてきたはずなのに……。


鍵は私の手の平で徐々に光を弱め、やがて元の鈍い金色に戻った。

信じられないことは、もうひとつ。

今度は空耳なんかじゃなく、確かなピアノの音が……奏の音がする……。


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