奏 〜Fantasia for piano〜
ドビュッシーの『月の光』が部屋の中から聴こえていた。
キラキラと輝く純粋さと、深い知識とテクニックと、溢れるほどの情熱に彩られた音で。
私は無我夢中で白い扉に鍵を挿し込み、勢いよく開けて中に飛び込んだ。
夢じゃないと言ってほしい。
どうか、どうか……。
白い壁板も床も、夜の藍色に染まる六角形の部屋の中に、年代を重ねた黒いグランドピアノが一台。
天窓から満月が見えていて、ピアノを弾く美しい青年と鍵盤を、斜めに淡い光で照らしてくれていた。
ああ……奏だ……。
会いたくてたまらなかった奏が、ここにいる……。
別れの日に比べると、骨格に男らしさが増している。
でも綺麗だと表現したい顔立ちや、スラリとした手足はそのままで、大人になった奏はより魅力的になっていた。
胸に強烈な喜びが込み上げて、涙で視界がぼやけた。
奏は私に気づいても、ピアノを弾く手を止めようとしない。
口元に微かな笑みを浮かべ、自ら奏でる曲の世界に陶酔していた。
なんて素敵な演奏なのだろう……。
奏の作り上げる音楽の世界に感動して、さらに涙の量が増した。