奏 〜Fantasia for piano〜

『お父さん、いつ迎えに来てくれるの?
今日、明日?』


生まれたらお母さんも退院して、すぐに元の生活に戻れると思っていたので、明るい声でお父さんに問いかけた。

しかし、受話器の向こうで、お父さんはすまなそうに言った。


『お母さんはしばらく病院にいないといけないんだ。本当は一週間くらいで退院できるんだけど、体調が悪いからどれくらいかかるか……。

赤ちゃんも、もう少し大きくなるまで病院に入院するんだよ。

だから綾、もう少し待って。ごめんな』


お父さんの嘘つき……。

生まれたら迎えに行くという言葉を信じていた私は、裏切られた思いがしていた。

幼い心は壊れてしまいそうに痛み、このままいつまで待っても迎えに来てくれないのではないかという不信感が芽生えていた。

悲しみの中でどんどん悪い方へと考えが向いて、ついにはどん底まで落ちてしまう。


綾は……捨てられたんだ。

大きくなった綾より、赤ちゃんの方が小さくて可愛いから、綾なんかもういらない子なんだ。

生まれたのに、まだ入院してるなんて変だもん。

きっと家には、お父さんとお母さんと、赤ちゃんがいるに違いない。

綾のいない家で、三人だけで楽しく……。

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