奏 〜Fantasia for piano〜
あり得ないと思いながらも、管理人に冗談を言っている雰囲気は微塵もなく、まさか本当だろうか?と思い始める自分がいた。
私の中の常識を壊されそうな怖さを感じて、質問を変えてみる。
「扉は飾り物ですか?
高い場所にもありますけど」
「いいえ、全ての扉の内側にはお部屋がございます。ご覧になられた方が分かりやすいと思いますので、どうぞこちらに」
管理人が優雅な足取りで通路を歩き出し、手前から三番目の扉の前で立ち止まった。
斜め後ろに立つ私の方に向き直ると、彼は白い燕尾服の内側から鍵の束を取り出した。
それは、どこにしまってあったのだろうと不思議に思うような大きな束で、鍵の数は数百……いや、数千はありそうだ。
重そうな素振りも見せずにひとつの鍵を選び出すと、管理人は目の前の扉に差し込んだ。
鍵を開けて、ドアノブを引く。
キィッと軋む音を立てて開いた扉の内側は、どこかの教会だった。
黒づくめの衣装の人が、暗い表情で立ち並んでいる。
十字架の前には白い棺があり、白人のおじいさんが棺にすがって泣いていた。