奏 〜Fantasia for piano〜
同じように見せられた扉の内側は、どこかの研究施設のような部屋で、白衣を着た三十代くらいの日本人男性がひとりいた。
彼はガラスのフラスコを床に叩きつけて割り、英語の文章やグラフなどが書かれた紙をビリビリに破いて喚いていた。
「あの野郎は絶対に許さねぇ!
いつか復讐してやるから、覚えてろ!」
怒り狂う彼がガラスのシャーレを投げて、それが私の方に飛んできた。
思わず「キャア!」と悲鳴を上げて目を瞑ったけど、衝撃はなく、まるで私をすり抜けたように、すぐ後ろの床で砕け散っていた。
あれ……あれれ……。
さっきもそうだったけど、扉の中にいる人には私の姿は見えていないみたい。
物もぶつからない。
ということは、部屋の中での私は、幽霊か透明人間のようなものなのか……。
ひとりだけ平然としている管理人は、私を連れて扉の外に出ると、閉めながら言った。
「彼はとある大学病院に所属している研究者で、同僚に研究成果を横取りされたことで、あのように怒っております。
制御できないほどの怒りを切り離し、この部屋に置いておくことで、現実世界では新しい研究に取り組めているようです」