奏 〜Fantasia for piano〜
完全に扉が閉まると、物音ひとつ聞こえない清寂が戻ってきた。
右を見ると、六角形の広いスペースに繋がる、通路の出入口がポッカリと口を開けている。
左を見ると、扉だらけの白い通路がどこまでも伸びていて、終わりは見えなかった。
ふたつの部屋を見せられて、なんとなく、この世界が分かったような気になっていた。
『ここは、切り離した心をしまっておくための世界です』と、最初に管理人が言っていた。
喪服のおじいさんは悲しみを、白衣の研究者は怒りを切り離して、ここに閉じ込めた。
そうすることで、現実世界では、ごく普通に生活しているのだろう。
周囲の人にしたら、辛い出来事を乗り越えたように見えるのかもしれない。
でも違う。
悲しみを、怒りを、切り離しただけ。
それって、正しいことなのだろうか?
前に進めるなら、いいことのような気もするけど、戦わずに逃げているだけというか、自分の中で決着をつけていないというか。
なにか間違っているような……。